多系統萎縮症レジストリーの概要
多系統萎縮症レジストリーでは、患者さんのご協力、ご参加をいただいて、次のようなことを目的として活動していきます。
- 多系統萎縮症患者さんの症状がどのような経過を示すのか(自然歴といいます)についての、情報の集積をします。この情報は、将来、臨床治験をデザインする際に、とても有用な情報となります。
- 多系統萎縮症の臨床治験の情報をご提供します。また、治験が開始された際には、治験への参加などに関する具体的な情報をご提供いたします。
- ニュースレターを発行し、多系統萎縮症の診療や研究についての最新情報をご提供いたします。
- 現在計画されている治験においては、COQ2という遺伝子の多型(個人個人の持つ遺伝子配列の特徴)によって患者さんのグループを分けて(層別化といいます)実施する予定ですので、COQ2の遺伝子解析へのご協力をお願いしております。
- 多系統萎縮症の原因の解明のために、ゲノムや血漿などを用いた研究へのご協力をお願いしております。ご了解が得られましたら、これらの生体試料は、難病バンクに寄託し、多くの研究者が、多系統萎縮症の研究に利活用できるようにいたします。
次に、上記のそれぞれの項目について、ご説明をします。
- 多系統萎縮症患者さんの症状がどのような経過を示すのか(自然歴といいます)についての情報の集積
多系統萎縮症患者さんの症状がどのような経過を示すのかについて、6ヶ月毎に、症状の変化を電話インタビューでお伺いします。このインタビューは、医療機関との間で秘密保持契約を交わした医薬品開発受託機関が担当いたします。看護師の資格を持った方が、ご自宅にお電話をして、症状の変化を伺います。お伺いする項目は、国際的に確立されている多系統萎縮症の評価基準の第1部の項目を使用させていただきます。また、神経内科医による診察を、登録開始時点、その後1年毎に行わせていただき、上記の評価基準の第2部の項目を評価します。これらの情報により、多系統萎縮症患者さんの症状が、経過と共にどのように変化するかを詳細に把握できます。この情報は、将来の臨床治験において、大変貴重な情報となり、今後行われる臨床治験のデザインに活用されます。このような情報は、現在計画中の治験だけでなく、将来の治験においても、関係する医療機関や製薬企業が共有し、活用していただくようにいたします。 - 多系統萎縮症の臨床治験の情報をご提供します
現在、医師主導治験として、高用量コエンザイムQ10を用いる治験が計画されています。これまでに、健康な方を対象にした、第I相試験を終了しており、患者さんを対象にした第II相試験はこれから開始する予定になっています。この第II相試験については、日本医療研究開発機構(AMED), 医薬品医療機器総合機構(PMDA)と打ち合わせを進めております。治験に関する情報は、随時、このホームページ上およびニュースレターでご提供していきます。 - 多系統萎縮症の診療、研究に関する情報の提供
多系統萎縮症は比較的稀な病気ですが、日本国内はもとより国際的にも多くの医師、研究者が、この病気の克服を目指して努力をしております。診療面、研究面での新しい情報については、随時、このホームページ上およびニュースレターでご提供していきます。 - COQ2遺伝子の検査
私達の研究で、日本人では、COQ2という遺伝子の中で観察されるV393Aという多型(一般の人々の間で、1%以上の頻度で観察される変異を多型と呼びます)について調べてみたところ、患者さんの中でV393Aを持っている方の頻度は、一般の健康な方々の中で観察される頻度と比較して、 3倍近く高く、多系統萎縮症を発症する要因の一つになっていると考えられています。このV393Aという多型は、健康な方々でも一定の割合で持っていますので (日本人では3.3%程度) 、この多型があると必ず多系統萎縮症を発症するというほどに、強い要因ではないことにご留意ください。また、このV393Aは日本だけでなく、台湾、中国などの東アジアの地域の人々の間で比較的頻度が高く観察され、多系統萎縮症の患者さんではその頻度が有意に高いことが確認されています。以上のことから、このレジストリーへの参加におかれましては、COQ2の遺伝子の解析について、ご同意を頂くことをお願いしております。検査は、病院で行う血液検査と同様の採血を行い、COQ2遺伝子の検査を実施します。検査については、詳しくご説明をさせていただいた上でご同意をいただくようにいたします。 - 多系統萎縮症の原因解明を目指した研究へのご協力のお願い
多系統萎縮症の原因は、まだその全貌が解明されていません。上に述べたCOQ2の変異は、その一部ですが、原因となっている要因の多くはまだ未解明であります。どのようにすれば、解明できるかという点については、私達は、多系統萎縮症の発症に関係している要因がゲノム上にいくつかあるのではないかと考えています。また、ゲノムだけでなく。血液中の成分などについても異常の手がかりが得られる可能性があると考えています。このような研究は、私達だけでなく、多くの研究者がそれぞれ独自のアイデアで研究を進めることが大切であると考えています。このような考え方に立ち、ご提供いただいた、ゲノムや血液(正確には血漿といいます)の生体試料については、東京大学医学部附属病院に保管し、研究に活用するだけでなく、難病バンクに寄託して、他の医療機関、研究機関、製薬企業の研究者などが利用できるようにいたします(難病バンクに申請をして分譲を受けるという流れになります)。私達は、難病バンクへの寄託と、他の研究者への分譲が、多系統萎縮症の原因を解明していく上でとても役立つことになると考えておりますので、ぜひご協力をお願いいたします。