医療情報
多系統萎縮症とは
多系統萎縮症は、神経疾患の一つで、自律神経障害(起立時の低血圧、排尿障害、便秘、男性におけるインポテンツ)、小脳性運動失調(ろれつが回らずしゃべりづらい、歩行がふらふらする、手が上手に動かない)、パーキンソン症状(筋肉が固くこわばる、動作が遅くなる、動作の幅が小さくなる)などのいくつかの症状の組み合わせが起こります。運動症状の出現する前に、レム睡眠行動異常症といって、睡眠中に寝ぼけて声を出す・体を動かす症状を示す患者さんもいます。
神経疾患の中には、ご家族にも同じような病気を起こす遺伝性の場合がありますが、多系統萎縮症では遺伝性のケースが非常に稀であり、原則として非遺伝性・孤発性の病気と考えられています。
病気の原因
多系統萎縮症は代表的な孤発性疾患と考えられており、家族内に同じ病気の方が現れることはほとんどなく、その点からは遺伝の要素は小さいと考えられています。一方、頻度はきわめて稀ですが、家族内に多系統萎縮症の方が複数発症することが経験され、このような多発家系のゲノム研究から発症に関わるゲノム上の異常の探索研究が進められています。多系統萎縮症で亡くなった方の脳の病理所見から、神経細胞を取りまいている、グリア細胞と呼ばれる細胞の中に、封入体が観察され、その主成分として、α-シヌクレインというタンパク質が確認されています。このα-シヌクレインというタンパク質は、パーキンソン病で神経細胞の中に観察される封入体の主成分としても観察されています。ただ、このα-シヌクレインというタンパク質がどのような機序でグリア細胞の中に蓄積して封入体を形成するのか、また、そのような封入体の形成が、どのような機序で多系統萎縮症を引き起こすのかという点については、まだ未解明です。
診断や症状を評価するための検査
神経の症状の組み合わせから、この病気を疑います。さらに必要に応じて、頭部MRI検査、脳血流SPECT検査、自律神経の機能を調べる検査(起立時の血圧の変化をみる検査、残尿の程度や排尿の機能を見る検査、MIBG心筋シンチグラフィー検査)、睡眠中のいびき・無呼吸や寝言や体動を調べる検査などを行います。症状の少ない初期には診断が難しいこともあります。
現在行われている治療について
小脳性運動失調に対してはタルチレリン、パーキンソン症状に対しては抗パーキンソン病薬(レボドーパやドパミン受容体作動薬など)を用いることがあります。症状を改善させる可能性がありますが、残念ながら多くの場合、その効果は限定的、一時的であり、病気の進行そのものを軽減することは難しいと考えられています。
自律神経障害の症状に対しては、症状に応じた治療を行います。例えば、程度の強い起立時の低血圧に対しては塩分の多い食事の指導・足を強く締め付けるストッキング・昇圧薬(単独、またはいくつかの薬剤の組み合わせ)、頻尿に対しては排尿回数を減らす薬剤、残尿・排尿困難に対してはカテーテルを使った導尿、便秘に対しては緩下剤や浣腸を用いることがあります。
夜間、睡眠中のいびきや無呼吸の程度が強い方には、マスクを付けて呼吸を補助する機械(呼吸の補助の仕方によってCPAP、BiPAPと呼ばれます)が役に立つことがあります。
小脳性運動失調やパーキンソン症状の程度が強いと、食事を飲み込むことが難しくなり、栄養が取れずに体重が減ったり、誤嚥(唾液や食べ物が食道に入らずに気管に入ってしまうこと)による肺炎が起きたりすることが心配されます。この場合、胃ろうといって、体の外から胃にチューブを差し込んで、外から胃に栄養を届ける方法が広く用いられています。